年間1万人が失踪!?技能実習制度の問題点について

「技能実習制度」は、外国人労働者の受け入れに関する重要な制度ですが、長年にわたって人権侵害・労働搾取・制度の形骸化など多くの問題点が指摘されています。
以下では、制度の**概要 → 問題点 → 関連する法的根拠(条文)**の順に、行政書士実務・法学的観点から整理して説明します。


目次

🇯🇵 技能実習制度の概要

技能実習制度は、発展途上国の人材に対し、
「日本の技能・技術・知識を移転し、母国の発展に寄与すること」を目的に設けられた制度です。

  • 根拠法:「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」
    (平成28年法律第89号、以下「技能実習法」)
  • 制度開始:1993年(法制化は2017年施行)
  • 管轄:出入国在留管理庁・厚生労働省・外国人技能実習機構(OTIT)

⚖️ 主な法的根拠(根拠法)

◆ 技能実習法 第3条(目的)

この法律は、技能実習を通じて、開発途上地域等への技能等の移転を図り、国際協力を推進することを目的とする。

→ 本来は「国際貢献目的」の制度です。
しかし、実態としては人手不足対策として運用されている点が問題視されています。


❗ 技能実習制度の主な問題点と法的背景


① 「建前」と「実態」の乖離

法的根拠:技能実習法第3条(目的)

  • 目的は「国際貢献」ですが、実態は「安価な労働力確保」。
  • 労働実態は単純労働中心で、「技能移転」とは言い難い。

具体例:

  • 農業・介護・建設・製造などで人手不足補填が目的化。
  • 技能実習生の約8割が単純労働業務(厚労省調査)。

📌【問題点】
→ 「技能実習」ではなく「労働者」としての位置づけが妥当にもかかわらず、
法制度上は「研修生」として扱われ、労働者保護が十分でない。


② 低賃金・長時間労働・人権侵害

法的根拠:労働基準法・最低賃金法・技能実習法第13条

第13条 実習実施者は、技能実習生に対して、労働関係法令その他の法令を遵守しなければならない。

にもかかわらず:

  • 賃金未払い・長時間労働・暴言・暴行などが多発。
  • OTITへの人権相談件数は年間1万件以上(2023年度)。

📌【問題点】
→ 実習生が監理団体や受入企業に依存しているため、
「不正を訴えると帰国させられる」という構造的弱さ。


③ 監理団体・受入企業による不正

法的根拠:技能実習法第43条、第44条、第45条

第43条 監理団体は、技能実習生の保護に配慮しなければならない。
第44条 不正行為を行った場合、認可を取り消すことができる。

現実では:

  • 不正行為(賃金搾取・パスポート取り上げ・暴力など)で毎年400件以上の認定取消し。
  • 監理団体の監督が形骸化。
  • 実習先企業が偽装申請や過重労働を隠すケースも。

📌【問題点】
→ 監理団体の「利益相反」構造(監督者でありながら受入側の利益にも関与)。
→ 実効性ある監査・処分が不十分。


④ 実習生の自由の制限・転職制限

法的根拠:技能実習法第5条、第13条

第5条 技能実習は、技能実習生が技能等を修得することを目的とするものであり、転籍は原則認められない。

  • 実習生は原則として職場を変更できない
  • パワハラ・劣悪な環境でも辞められず、逃げると「失踪」扱い。
  • 2023年には約1万人以上が失踪

📌【問題点】
→ 労働契約上の自由が極端に制限され、「強制労働的構造」と批判される。
→ ILO(国際労働機関)も「人権侵害の懸念あり」と日本政府に勧告。


⑤ 実習生保護機構(OTIT)の限界

法的根拠:技能実習法第22条〜第33条

第22条 外国人技能実習機構は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図ることを目的とする。

  • 相談・監査を行う公的機関だが、実効力が弱い。
  • 実習生の「強制帰国」や「逃亡」問題に十分対応できていない。
  • 実質的な強制力・救済措置が欠如。

📌【問題点】
→ 「監督・救済機能」が制度的に限定されており、現場の改善に繋がらない。


⑥ 国際人権条約との整合性の欠如

法的根拠:

  • 日本国憲法第18条(奴隷的拘束の禁止)
  • 国際労働機関(ILO)第29号条約(強制労働の禁止)
  • 国際人権規約B規約第8条(強制労働の禁止)

📌【問題点】
→ 実習生の転職制限・自由制限が「強制労働」に該当する可能性。
→ 国連・ILOから複数回にわたり是正勧告を受けている。


🧩 制度改革の動き(2024〜2025年)

  • 政府は「技能実習制度を廃止し、新たな制度へ移行」方針を決定(2024年)。
  • 新制度:「育成就労制度」へ(3年→5年、転職制限を緩和)。
  • 根拠法案:**「育成就労法案(仮称)」**を2025年通常国会に提出予定。

🧾 まとめ:技能実習制度の法的・構造的問題点

問題点根拠法・条文内容
建前と実態の乖離技能実習法第3条「国際貢献」目的が実質的に労働力確保
人権侵害・労働搾取技能実習法第13条、労基法長時間労働・賃金未払い・暴行など
転職・移動の制限技能実習法第5条実質的な拘束構造
監理団体の不正技能実習法第43〜45条監督機能の形骸化
救済制度の限界技能実習法第22〜33条OTITの実効性不足
国際条約との矛盾憲法18条・ILO条約強制労働の疑い

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この記事を書いた人

東京都行政書士会墨田支部所属の富森翔太です。
相続、許認可、会社設立等の業務を行なっています。
行政や法律に関する疑問や手続きについてわかりやすく発信していきます。

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