選択的夫婦別姓制度(夫婦が「同姓」か「別姓」かを自由に選べる制度)は、多様な家族のあり方を認める制度として議論されていますが、導入にはいくつかの問題点や懸念も指摘されています。以下で主な論点を整理して説明いたします。
⚖️ 1. 戸籍制度との整合性の問題
日本の戸籍制度は「一家単位」で構成されており、戸籍上の「夫婦は同じ氏を名乗る」ことを前提に設計されています。
そのため、別姓を認めると次のような技術的・制度的課題が生じます。
- 戸籍の整理方法:戸籍簿で夫婦が異なる氏を持つ場合、どちらの氏を「戸籍筆頭者」とするか、また子どもの氏の記載方法をどうするかが複雑化する。
- システム改修費用:自治体の戸籍システムの大幅な改修が必要になる。
👨👩👧 2. 子どもの氏をどうするかという問題
夫婦が別姓の場合、子どもの氏をどちらに合わせるかが新たな争点になります。
- 子どもの姓をめぐって夫婦間で対立する可能性。
- 兄弟姉妹で姓が異なる場合、家庭内での一体感や社会的誤解が生まれる懸念。
- 子の「アイデンティティ形成」に影響を及ぼす可能性があるとの指摘。
🏛 3. 社会的・慣習的な混乱
長年「夫婦同姓」が慣習として根付いているため、別姓を選ぶ家庭が増えると社会的な混乱が予想されます。
- 行政手続きや学校での呼称に混乱が生じる可能性。
- 社会が「別姓夫婦」を理解しきれず、職場や地域での誤解や偏見が生まれる懸念。
- 特に高齢世代を中心に、「家族の一体感が損なわれる」との心理的反発が根強い。
💼 4. 同姓維持を望む人との対立構造
「選択的」制度とはいえ、実際に導入された場合には、
- 社会的圧力により「別姓を選ばないと時代遅れ」と見なされる懸念。
- 結婚前に姓を変えたくない人と、家族名を統一したい人との価値観の衝突が起こり得る。
⚙️ 5. 実務的な問題
- パスポート、銀行口座、保険、税金、年金などの名義統一手続きが複雑化する。
- 同一人物確認が難しくなり、本人確認事務に支障をきたす可能性。
📚 6. 憲法解釈上の課題
憲法第24条は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦は同等の権利を有する」と定めています。
しかし、現行の民法750条(夫婦同姓)は「形式上の平等」とされ、最高裁も2015年および2021年の判決で「違憲ではない」と判断しました。
選択的別姓の導入には、民法改正および憲法解釈の再検討が必要となります。
🧭 まとめ
| 分類 | 主な問題点 |
|---|---|
| 制度面 | 戸籍制度・行政システムの対応が難しい |
| 家族面 | 子どもの姓・家庭内一体感の問題 |
| 社会面 | 慣習や周囲の理解不足による混乱 |
| 実務面 | 名義・本人確認の煩雑化 |
| 法的側面 | 憲法・民法改正の必要性 |
🌸 選択的夫婦別姓のメリット
① 個人の尊厳と多様性の尊重
現行の民法第750条では「夫婦は同じ氏を称する」と定められていますが、実際には約9割の夫婦が妻の氏を変更しています。
選択的別姓が導入されれば、
- 結婚後も自分の名前をそのまま使える
- 性別や慣習による不平等を解消できる
など、個人の尊厳や平等権(憲法13条・14条・24条)を尊重する制度となります。
② 社会的・職業的アイデンティティの保護
特に、学者・医師・芸術家・会社員など、名前が職業上の信用と結びつく人にとっては大きな利点です。
- 結婚によって名前が変わると、論文・資格・名刺・顧客情報の変更が必要。
- 旧姓併記制度があっても、法的な氏名は一つのため、不便が残る。
別姓制度なら、法的にも社会的にも一貫した氏を保持できます。
③ 国際結婚や多様な家族形態への対応
国際結婚の場合、相手国で夫婦同姓の義務がないケースが多く、
日本側の「同姓義務」が制度的な障害になることがあります。
また、近年は事実婚・再婚・ステップファミリーなど多様な家族が増えており、
別姓を認めることで、現実の家族形態に即した柔軟な選択が可能となります。
④ 社会的な合理化・行政効率の向上
一見、手続きが増えるように思われますが、
現実には「改姓による手続き負担」を減らす効果があります。
- 銀行口座、免許証、保険証、マイナンバーなどの名義変更が不要。
- 改姓に伴う社会的コスト(時間・書類・手数料)を削減できる。
⑤ 家族のあり方の多様化を認める社会的意義
「家族=同じ姓」という価値観に縛られず、
夫婦や家族それぞれが対等な立場で関係を築ける社会を目指す動きです。
これはLGBTQ+や多文化共生の観点からも重要であり、
「家族の形は一つではない」という社会の成熟を象徴します。
🌍 諸外国との比較
| 国名 | 制度の概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 原則同姓(夫婦どちらかの姓) | 世界でも珍しい「同姓義務国」 |
| 🇺🇸 アメリカ | 完全自由(別姓・同姓・複合姓) | 州法で異なるが、社会的に選択が自由 |
| 🇩🇪 ドイツ | 選択制(同姓・別姓どちらも可) | 子どもの姓も夫婦で選択可能 |
| 🇫🇷 フランス | 法的姓は維持、婚姻姓を通称として使用可 | 実質的な選択的別姓制度 |
| 🇰🇷 韓国 | 結婚後も原則としてそれぞれの姓を維持 | 夫婦同姓制度は存在しない |
| 🇨🇳 中国 | 夫婦別姓が原則 | 子どもの姓は父母どちらでも可 |
📌 国際的に見ると、日本は例外的に「同姓義務」が残る国です。
OECD加盟国の中では、夫婦同姓を法律で強制しているのは日本のみとされています。
🔍 総合的に見ると…
| 観点 | 選択的別姓導入の意義 |
|---|---|
| 人権・平等 | 性別による不利益を是正し、個人の尊厳を守る |
| 経済・社会 | 改姓コスト削減、働き方や国際結婚への柔軟対応 |
| 法制度 | 現実に即した戸籍・家族制度への進化 |
| 文化的意義 | 多様な価値観を認める成熟した社会への一歩 |


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