契約書がなくても契約は成立する?口約束の効力やトラブルを防ぐ方法を行政書士が分かりやすく解説

契約書がなくても契約は成立する?口約束やLINE・メールだけでも契約になるのか、契約成立の条件、契約書が必要となる例外、証拠がない場合の問題点、契約書を作成するメリットを行政書士が分かりやすく解説します。
契約書がなくても契約は成立する?口約束の効力やトラブルを防ぐ方法を行政書士が分かりやすく解説
「契約書にサインしていないから、まだ契約は成立していない」
「口約束だけなら後から断っても問題ない」
「LINEで仕事を頼まれただけだから正式な契約ではない」
このように考えている方は少なくありません。
しかし、法律上は必ずしも契約書を作成しなければ契約が成立しないわけではありません。
民法では、原則として契約は当事者双方の意思表示が合致することによって成立します。法務省も、一般に契約は口頭での約束でも成立すると説明しています。
例えば、知人から「このパソコンを5万円で売るよ」と言われ、「5万円なら買います」と承諾すれば、原則として売買契約は成立します。
契約書への署名・押印は、契約成立の絶対条件ではありません。
ただし、「契約が成立すること」と「後から契約内容を証明できること」は別問題です。
口約束だけで契約した場合、トラブルになったときに「そんな約束はしていない」「金額は10万円だった」「キャンセルできると言った」など、契約内容をめぐって争いになる可能性があります。
そのため、重要な取引では契約書を作成しておくことが非常に重要です。
この記事では、契約書がなくても契約が成立する理由、口約束やLINE・メールの効力、契約書が必要となる例外、契約書を作るメリット、トラブルを防ぐポイントについて分かりやすく解説します。
契約とはそもそも何?
契約とは、簡単にいえば当事者同士の合意によって法律上の権利や義務を発生させる約束です。
私たちは日常生活の中で、意識せずに多くの契約をしています。
例えばコンビニで商品を購入するときも契約です。
客が商品をレジへ持って行き、店側が販売し、代金を支払います。
このとき通常は、
「売買契約書」
を作成することはありません。
それでも売買契約は成立しています。
飲食店で料理を注文すること、タクシーに乗ること、美容院でカットを依頼することなども契約関係が発生する代表例です。
つまり、私たちは契約書を作らなくても日常的に契約を締結しています。
契約書がなくても契約は成立する
民法では、契約は原則として当事者の意思表示が合致することで成立します。
一方が契約内容を示して申し込み、それに対してもう一方が承諾するという形です。
例えば、
Aさん「この中古バイクを30万円で売ります」
Bさん「30万円で買います」
というやり取りがあったとします。
売買の対象となるバイクと価格について双方が合意しているため、原則として売買契約は成立します。
契約書を作っていないから契約ではない、ということにはなりません。
このように、当事者の合意だけで成立し、特別な方式を原則として必要としない契約を「諾成契約」といいます。
現在の民法では、法令に特別な定めがある場合を除き、契約の成立には書面作成などの方式を必要としないことが明確にされています。
契約成立の基本は「申込み」と「承諾」
契約成立を理解するときに重要なのが、
「申込み」
「承諾」
という2つの意思表示です。
例えばホームページ制作を依頼するケースで考えてみます。
制作会社が、
「ホームページを30万円で制作します」
と提案します。
依頼者が、
「その内容でお願いします」
と承諾します。
このように契約内容について意思が一致すれば、原則として契約が成立します。
法務省の契約法に関する資料でも、契約は契約内容を示した申込みに対して相手方が承諾したときに成立するという考え方が示されています。
重要なのは契約書という紙そのものではなく、「双方が何について合意したのか」です。
口約束でも契約になる?
原則としてなります。
例えば知人に、
「来月から毎月5万円でホームページの管理をお願いしたい」
と頼み、相手が、
「分かりました。やります」
と承諾した場合です。
契約内容について双方の意思が一致していれば、契約書を作成していなくても契約が成立する可能性があります。
したがって、
「口約束だからいつでも一方的に無かったことにできる」
とは限りません。
相手が契約成立を前提に仕事を開始していれば、報酬や損害をめぐる問題に発展する可能性もあります。
LINEやメールでも契約は成立する?
LINEやメールでのやり取りでも契約は成立する可能性があります。
例えば、
「ロゴ制作を5万円でお願いできますか?」
「5万円で承ります。納期は8月31日です」
「お願いします」
というやり取りがメールに残っているケースです。
この場合、
何を依頼したのか
いくらなのか
納期はいつなのか
相手が承諾したのか
といった内容を確認できます。
契約書という名称のPDFを作成していなくても、やり取り全体から契約の成立が認められる可能性があります。
LINE、メール、チャットツールなどは、口頭だけの約束と比較すると、合意内容を後から確認できるという意味でも重要です。
ただし、メッセージが残っていれば必ず契約成立が認められるわけではありません。
単なる交渉段階なのか、正式な申込み・承諾なのかは、実際のやり取り全体から判断されます。
見積書だけでも契約は成立する?
見積書を発行しただけで必ず契約が成立するわけではありません。
見積書は通常、
「この条件ならこの金額で対応します」
という取引条件を提示するための書類です。
例えば施工業者が100万円の見積書を出したものの、依頼者が検討しただけで正式に依頼していない場合、見積書が存在するだけで直ちに契約が成立したとはいえません。
一方、
見積書を提出
↓
依頼者が内容を確認
↓
「この内容でお願いします」とメール
↓
業者が工事日を確定
という流れであれば、契約成立が認められる可能性があります。
書類のタイトルよりも、当事者間で最終的な合意が成立したかどうかが重要です。
請求書があれば契約したことになる?
請求書も同様です。
一方的に請求書を発行しただけで、相手との間に契約が成立するわけではありません。
しかし、
見積書
発注書
注文請書
メール
LINE
請求書
納品書
銀行振込記録
などを組み合わせることで、契約の存在や内容を説明できる場合があります。
契約書が存在しないトラブルでは、一つの資料だけを見るのではなく、取引全体の記録を整理することが重要になります。
契約書がない場合に問題になるのは「証拠」
契約書がなくても契約は成立します。
それでは、なぜわざわざ契約書を作成するのでしょうか。
大きな理由の一つが「契約内容を証明するため」です。
法務省も、契約書を作成する意義として、契約内容を詳細に定められることや、後日の「言った・言わない」という争いを防ぎ、契約内容を明確にできることを挙げています。
例えば口頭で業務を依頼したケースを考えてみます。
依頼者
「10万円で全部お願いした」
受託者
「10万円は基本作業だけで追加作業は別料金だと説明した」
このような争いになった場合です。
契約自体が成立していることには双方が同意していても、「どこまでが契約内容だったのか」で争いになることがあります。
契約書を作成して、
業務内容
報酬
支払時期
追加料金
納期
キャンセル
契約解除
損害賠償
などを明確にしておけば、こうしたトラブルを大幅に減らすことができます。
契約書を作る5つのメリット
1 契約内容を明確にできる
最も大きなメリットです。
口頭では「だいたいこんな感じで」と進めてしまう内容でも、文章にすると曖昧な部分が見えてきます。
例えば業務委託契約なら、
「ホームページ運営を任せる」
だけでは不十分な場合があります。
記事更新は含むのか。
画像作成は含むのか。
問い合わせ対応は含むのか。
サーバー管理は含むのか。
月何回まで対応するのか。
契約書を作成する過程で、こうした条件を整理できます。
2 言った・言わないを防げる
口約束で最も多い問題の一つです。
契約締結時には双方が理解していたとしても、半年後、1年後には記憶が曖昧になることがあります。
担当者が退職した場合には、会社内で契約内容を確認できなくなることもあります。
契約書があれば、後から条件を確認できます。
3 トラブル発生時の証拠になる
契約違反や未払いなどが発生した場合、契約書は重要な証拠になります。
例えば報酬50万円の業務委託契約で、
「納品後30日以内に支払う」
と明記されていれば、支払期限を確認しやすくなります。
契約書がなければ、そもそも報酬額や支払期限について争われる可能性があります。
4 契約解除の条件を決められる
契約を始めることばかり考えて、終わらせ方を決めていないケースは珍しくありません。
例えば、
何日前までに通知すれば解約できるのか
途中解約した場合の料金はどうするのか
重大な契約違反があった場合は即時解除できるのか
などを契約書で決めておけば、契約終了時のトラブルを防ぎやすくなります。
5 相手との認識を合わせられる
契約書作成には「証拠を残す」だけではなく、契約締結前に認識の違いを発見する役割もあります。
契約書案を確認してもらったところ、
「そこまでお願いしたつもりはない」
「支払いは翌月末だと思っていた」
という違いが見つかることがあります。
契約締結前なら修正できます。
トラブルになってから認識の違いに気付くより、契約前に確認した方がはるかに安全です。
例外として書面等が重要になる契約もある
「契約は口約束でも成立する」という原則には例外があります。
法律によって特別な方式が定められている契約です。
代表例の一つが保証契約です。
民法第446条では、保証契約は書面でしなければ効力を生じないとされており、契約内容を記録した電磁的記録についても一定の扱いが定められています。法務省も、保証人の意思を明確にするため、保証契約には書面が必要であると説明しています。
したがって、
「すべての契約は口約束だけで問題ない」
という理解も正しくありません。
契約の種類によっては、法律上要求される形式を確認する必要があります。
個人根保証契約などではさらに注意が必要
保証契約の中でも、事業のための借入れなどについて個人が保証人となる一定の場合には、通常の契約書だけではなく、公正証書による保証意思の確認が必要となる場合があります。
2020年4月に施行された改正民法では、一定の事業用融資について個人が保証人になる場合、契約締結前に保証意思宣明公正証書を作成する制度が導入されています。
このように契約によっては、
口約束
通常の契約書
電子契約
公正証書
のどこまで必要なのかが異なります。
重要な契約ほど、契約の種類に応じた形式を確認することが大切です。
契約書に印鑑がなくても有効?
「ハンコがなければ契約書は無効」と思われることがありますが、必ずしもそうではありません。
契約の成立は原則として当事者の合意によるため、押印の有無だけで契約の有効・無効が決まるわけではありません。
ただし、署名や押印には、
誰が契約したのか
本人が契約内容を確認したのか
という点を証明しやすくする役割があります。
そのため、重要な契約書では署名・押印や電子署名などを利用し、契約当事者と合意内容を明確にしておくことが重要です。
電子契約でも大丈夫?
現在では紙の契約書だけでなく、電子契約を利用する企業も増えています。
契約の成立に書面が要求されない一般的な契約であれば、電子的な方法で合意を記録することも可能です。
法務省も、電子取引の普及を背景として電子公証制度などを整備しており、電子的なデータについて契約内容や成立時期を明確にする仕組みが設けられています。
紙か電子かという形式だけでなく、
誰が契約したか
契約内容が改変されていないか
いつ合意したか
契約書を後から確認できるか
という証拠管理も重要です。
契約書を作った方がよいケース
法律上書面が必須でなくても、次のような取引では契約書の作成をおすすめします。
| ケース | 契約書を作る主な理由 |
|---|---|
| 高額な取引 | 金額をめぐるトラブル防止 |
| 継続的な取引 | 契約期間・解約条件を明確化 |
| 業務委託 | 業務範囲を明確化 |
| 金銭の貸し借り | 金額・返済期限・利息等を明確化 |
| 商品の継続取引 | 発注・納品・支払条件を明確化 |
| 秘密情報を扱う取引 | 秘密保持義務を設定 |
| 知的財産が関係する取引 | 著作権等の帰属を明確化 |
| トラブル時の損害が大きい取引 | 責任範囲・解除条件を明確化 |
特に事業者間の取引では、「長年付き合いがあるから大丈夫」と契約書を作らないケースがあります。
しかし、担当者変更や経営者交代によって、それまでの口頭ルールが通用しなくなることもあります。
関係が良好なうちに契約内容を文書化しておくことが重要です。
STEP1 誰と誰の契約なのか確認する
契約書を作成するときは、まず契約当事者を正確に確認します。
個人なのか法人なのか。
法人なら正式な商号は何か。
本店所在地はどこか。
誰が代表者なのか。
会社と取引しているつもりだったのに、実際には代表者個人との契約になっていた、ということがないよう注意します。
STEP2 契約の目的を明確にする
次に「何をするための契約なのか」を整理します。
例えば業務委託契約なら、
Webサイト制作
コンサルティング
営業代行
動画制作
システム開発
など、委託する業務を具体的にします。
業務範囲が曖昧だと追加作業をめぐってトラブルになりやすくなります。
STEP3 お金について決める
金銭条件は特に重要です。
報酬額だけではなく、
消費税を含むか
支払期限
支払方法
振込手数料
追加料金
経費負担
遅延した場合の取扱い
なども確認します。
「10万円でお願いする」という一言だけでは、後から認識の違いが生じる可能性があります。
STEP4 契約期間と終了方法を決める
継続契約では、
契約開始日
契約終了日
自動更新の有無
更新期間
途中解約
解除条件
などを決めます。
特に自動更新契約では、「いつまでに通知すれば終了できるか」を明確にしておくことが重要です。
STEP5 トラブル時のルールを決める
契約違反が発生した場合についても決めておきます。
例えば、
秘密保持
損害賠償
契約解除
反社会的勢力の排除
協議事項
管轄裁判所
などです。
契約書は「契約するとき」だけではなく、「問題が起きたとき」を想定して作成することが重要です。
契約書作成前のチェックリスト
- 契約相手の氏名・会社名を確認した
- 契約の目的を明確にした
- 業務・商品の内容を具体的にした
- 契約金額を決めた
- 支払期限を決めた
- 契約期間を決めた
- 自動更新の有無を確認した
- 中途解約について決めた
- 契約違反時の解除条件を決めた
- 損害賠償について確認した
- 秘密保持が必要か確認した
- 著作権などの権利関係を確認した
- トラブル時の管轄裁判所を確認した
- 法律上、書面等が必要な契約ではないか確認した
実例1 友人に50万円を貸したが契約書がない
友人から「3か月後に返す」と言われ、50万円を銀行振込で貸したケースです。
借用書や金銭消費貸借契約書を作っていなかったとしても、直ちに貸付契約そのものが成立していないことになるわけではありません。
ただし相手から、
「もらったお金だ」
「返済期限は決めていない」
などと主張される可能性があります。
LINEのやり取り、振込記録、返済についてのメッセージなど、契約内容を確認できる資料が重要になります。
最初から契約書を作成しておけば、貸付金額や返済期限などを明確にできます。
実例2 LINEだけで仕事を依頼した
事業者がデザイナーへLINEでロゴ制作を依頼し、
「5万円、2週間でお願いします」
「了解しました」
というやり取りをしたケースです。
正式な業務委託契約書がなくても、やり取りの内容によっては契約が成立していると考えられます。
しかし、
修正回数
著作権
納品形式
キャンセル料
追加作業
について決めていなければ、後からトラブルになる可能性があります。
契約成立だけでなく「契約内容をどこまで決めたか」が重要です。
実例3 「契約書にサインしていないからキャンセルできる」と言われた
事業者同士で業務内容と金額についてメールで合意し、受託者がすでに作業を開始していたところ、依頼者から、
「契約書にまだサインしていないから契約は成立していない」
と言われたケースです。
契約書への署名を契約成立条件としていた場合などを除き、契約書に署名していないという理由だけで当然に契約が成立していないとはいえません。
メールの内容や交渉経緯、業務開始について双方がどのように認識していたかなどを確認する必要があります。
Q&A
Q1 契約書がなくても契約は成立しますか?
原則として成立します。
法律上特別な方式が要求されている場合を除き、契約は当事者の意思表示が合致することで成立します。法務省も、契約は一般に口頭の約束でも成立すると説明しています。
Q2 口約束にも法的効力がありますか?
あります。
口頭だから契約ではない、ということにはなりません。
ただし、後から契約内容を証明することが難しくなる可能性があります。
Q3 LINEの「お願いします」だけでも契約になりますか?
前後のやり取りによります。
何について、いくらで、どのような条件で申し込み、それに対して承諾したのかが分かる場合には、LINE上のやり取りでも契約成立が認められる可能性があります。
Q4 契約書に印鑑がなければ無効ですか?
一般的な契約については、押印がないことだけを理由として当然に無効になるわけではありません。
ただし、署名・押印などは契約当事者や合意内容を証明するうえで重要な役割があります。
Q5 契約書がないのに請求されたら支払わなくてもいいですか?
「契約書がない」という理由だけで支払義務がないとはいえません。
口頭やメールなどによって契約が成立している場合があります。
実際に契約が成立しているか、どのような契約内容だったかを確認する必要があります。
Q6 すべての契約が口約束で成立しますか?
いいえ。
保証契約など、法律上書面等が要求される契約があります。
契約の種類によって必要な形式を確認する必要があります。
Q7 契約書は行政書士に作成してもらえますか?
行政書士は、権利義務に関する書類として各種契約書を作成することができます。
例えば、
業務委託契約書
売買契約書
金銭消費貸借契約書
秘密保持契約書
合意書
示談書
などです。
ただし、すでに当事者間で法的紛争が発生している場合などは、弁護士の業務となるケースがあります。
行政書士への依頼を検討する場合には、トラブルが発生してからではなく、契約を締結する前の段階で契約内容を整理するのがおすすめです。
契約書は「契約を成立させるため」だけに作るものではない
契約書がなくても、契約は原則として成立します。
口頭、電話、LINE、メールなどであっても、申込みと承諾によって当事者の意思が一致すれば、契約が成立する可能性があります。
しかし、契約書が不要という意味ではありません。
むしろ契約書の重要な役割は、
「契約が成立したことを残す」
だけではなく、
「何を約束したのかを残す」
ことにあります。
契約金額、業務内容、支払期限、契約期間、途中解約、損害賠償などを明確にしておけば、後日のトラブルを防ぎやすくなります。
特に事業者間の継続的な取引や高額な取引では、口約束だけで進めることはおすすめできません。
関係が良好だからこそ、契約開始時に条件を書面化しておくことが大切です。
また、保証契約など法律上特別な方式が必要となる契約もあるため、「契約は全部口約束で成立する」と考えるのも危険です。
富森行政書士事務所では、各種契約書、合意書などの作成をサポートしています。
「ネットで見つけたひな形をそのまま使って大丈夫か分からない」「自社の取引に合わせた契約書を作りたい」「口約束で取引しているので今後のために契約内容を整理したい」といった場合も、お気軽にご相談ください。
